お昼ごはんを食べようと、大きな池のほとりに腰かけていた。
まさかかっぱの方からこちらに声をかけてくるとは思わなかった。
「なにおにぎり?」
気付くと横にかっぱが座ってた。
あんまり普通に居られると、驚き忘れてしまうなんてことがあるもんだ。
今日のおにぎりは、梅だけど。
「うめかあ。うめねえ。
でも、おかかもいいよねえ。」
しんみり、と、うきうき、のあいだくらいの感じを上手に出して、かっぱは好きな食べ物の話をしばらく続けた。
あとは、コーラの瓶を吹いて鳴らすときの音の出しわけかたの話や、誰から聞いたのか、遠くの国にあるらしい斜めに傾いたままの古い塔の話。
夕焼けの時間になっても、ふたりで肩を並べて、でもずっとかっぱがしゃべっていた。
やがて陽が沈むにつれ、辺りが薄暗くなると目の前の池は沼のように見えて、
そこにかっぱの話すコーラの空き瓶が浮かんでくるように、はたまた、遠くで大きな塔が、そこへ沈んでいくようにも思えた。
かっぱは意外と、というか、意外かどうかもわからないけど、体育座りが上手だ。
僕は池のほとりっぽさを自分で引き立てようと、大きめの木の切り株に腰をかけてたんだけど、
かっぱはそのとなりの一段低い地面に体育座りをしてたから、
人間より小さめの体がよけいに小さく見えた。
「おにぎりをくれたお礼に、今晩うちへ泊まっていったらいいんじゃない?」
僕はもうおなかいっぱいで、食べきれなかったおにぎりを夕方、
結局かっぱにあげたから。
かっぱに会ってみたかったのは確かなんだけど、
泊まる、となると勇気がいるな。
なんか、ちょっとというか、なかなか、やだな。
そんな気持ちが顔に出てしまったんだろうけど、
察してすこし、かっぱがさみしそうにする。
かっぱの方を見ないように、まっすぐ池の水面を見つめる視界の隅で。
「泊まっていけばいいのにな、たのしいのになあ。
だってさあ、」
かっぱはこちらを見上げて、僕の洋服のすそを引っ張って言う。
「ほとり、は、ホテル、の語源なんですよ?」
たとえ無理して敬語で言っても、
それはうそだと思うんだよ。