「amadatasuku.com」のブログ

ひざのうら

体の部位には、それぞれなんだかんだ、役割があるものだよ、
こめかみだって、くるぶしだって、役割をもっている。
だのに、ひざのうらはなんだ。
名前さえ無い。
ひざのおもてがあるから、しかたなくうらがあるだけだ。
おもてがありつづけるために、あるだけの、ひざのうら。

じゃあ考えようではないかということで、考えてみるのだ。例えば。

ひざのうらになにか保管できないものか。落花生をひざのうらにはさんでおけないか。
おけないか。
じゃあ、好きな絵を描いて飾ってみよう。ひざのうらに絵を、描いても自分では見えないし、じゃあ。
じゃあ、ひざのうらにちょっとした秘密をかくしてみよう。まだ誰にも言ってないちょっとした発見や、内緒なんかを、ひざのうらにマジックで書いてみると、うしろの人から見えてしまうし、
では、では、
体温計を。いや、
おにぎりを。いや、
いや、鉄棒を。鉄棒で、なんかクラスで鉄棒がすごい得意な女子が（男子が）、
ひざのうらを使って鉄棒をはさんで、ぐるぐる回ってなかったっけ。どうだっけ。

でもま、そんくらい。
どうする？ひざのうら。やばくないか？
おもてがありつづけるために、あるだけの、ひざのうら。
名前がないから、まだ、今日もただ、ひざのうら。
ぜひがんばってほしい。





　

後部座席の錯覚

となりの車線のくるまのタイヤを、
じっと見ていると眠たくなってしまう一方で、そのタイヤが前に回っているのだか、後ろに回っているのだかわからなくなるみたいに。
くるまの中で目を閉じると、やがて眠ってしまうのではあるけれど、このくるまが、前に進んでいるようにも、後ろに進んでいるようにも思えるように。
眠ってしまう途中には、自分がどこかへ沈んでいくようにも、はたまたどこかへ浮かびあがるようにも思えそうなものなのに、沈んでいくようにしか想像できないのは、いったいどうして。

　

総本舗／短歌一首

急げ雨だ
和菓子屋のせがれ
物干しへ
職業は別に
関係ないけど


　

空間

あれもこれもと、ほしいものややりたい事や、こうなりたいとか、もし、ああであったらとか、
欲はあたまから蒸発して風にまじってとめどなく、とおくの満足のほうへ、ほうへと、広がっていくばかりだったりするのに、
ふと目をおとしたぼくのおなかの、こんな小さな胃袋を、ただいっぱいにするだけでそれで、もう満足だったりもするのだから、
ひとのあたまって、ちょっとおかしい。

　

月で初めて死ぬ人／短歌二首と短文

いつの日か
月で初めて死ぬ人が
間際に語り出す
恋の記憶



季節にはそのど真ん中で過ごして実感する魅力もあるけど、
でも、移ろってこそ季節、という感じもする。
おなじく、時代も、
そのただなかでは散々僕らを巻き込むけれど、
でも過ぎ去ってこそ初めて、時代って感じがしたりする。


時間は今のところ先へしか進まない。
エントロピーを裏付けるようにして時間は進んで、
移ろって、過ぎ去って、
その残り香みたいなものを拾い続けることが、時間の中で生きる上での宿命なのだと思う。
じゃあ、時間が移ろい過ぎ去り続けるただ中で、その残り香を拾い続ける手や足は。
川の流れのような時間の真ん中で、それにあらがい、不変であり続けるものは。



時代が進むと、人は月にも住むようになるだろうか。
もしそうすると、やがて必ず誰かが月で初めて死ぬ人になる。
その人がどんな人かは想像もつかないけれど、例えば病床で、彼は、彼女は、死にゆく間際にどんな思い出を振り返るだろう。
たぶんきっと、いま地球なんかで暮らす僕とかと、そんなに大差はないんじゃないかなあと思う。



やはり世は
意外と愛だ
コンビニへ
向かう僕には
見えないがきっと