2013年 01月 10日
丘の上に揃っていたものがバラバラになってしまう話 |
ソリの上にチーズが乗って、
チーズだけが乗って、
雪の坂をすべり降りていく。
そのあとを、おじさんが駆けていく。
ここからは、それを眺めている僕の想像。
だんだん昇ってきた陽のせいでやわらかくなっている雪は、
一歩一歩おじさんの足どりをぼこっ、ぼこっと捕まえているから、
きっとあと数歩か数十歩か駆けるうち、
おじさんは足をもつれさせて倒れてしまうだろう。
倒れたおじさんは、もちろんその勢いのまま転がって、
もちろんだんだんと雪だるまになっていく。
ごろん、と回ると雪が体全体にまとわりついて、
もう一度ごろん、と回るともっと雪にまみれて、
あと何度かごろんと回ると、少しだけ雪だるま風になってきて、
そこからはあっというま。
気付けば目鼻がついて、両手の枝も差さって雪だるま。
一方、チーズの乗ったソリは、
なにもないところにレールを敷いていくように痕を残して、
同時に見えないレールをたどるように迷いなく進む、進む。
傾斜はやがて遠くでゆるやかになって、
人もキツネもタヌキもいない林の入り口で、
ここからはうんと小さく見える木にこつん、と当たって止まる。
いまはもう空のてっぺんに太陽があって、
結果的には、
チーズは丘のふもとに。
おじさんは雪だるまになって丘の中腹に。
ワインの瓶は丘の上にある。
by amadatasuku
| 2013-01-10 15:35