2011年 12月 03日
みょうり |
だいたいあいつらはすぐに並んで写真を撮りたがるんだ。
きれいに一列に並ぶのがそんなに素敵なことか?
時には段差を利用して。三列やら五列やらに並んでさ。
ほっかむりかぶったみたいな大袈裟なカメラで。ぱちりって?
もう一枚!だってさ。
子供たちのなかには、指先までのばして「きをつけ」ってのをやってるやつもいる。
おれたちで言えば、ひづめの先までのばしてってか。
ださい。
ひづめの先までぴんとのばして、わざわざ写真に収まるか?ふつう。
やだね、やだやだ。ださいって。
おれたちゃさ、撮られることに関しちゃ、まあ退屈な午後をまるごと使って語れるくらいには、こだわりを持ってんのさ。
シャレた撮られ方ってのはな。おい。
前脚をこうして、ふたつに折り曲げてな。さも撮られてることには気付いてませんよ、ってか、撮られてることなんか、気付いてるけども気にしてませんよってな、いわゆる自然体でこう。な。
シャンと立たずに、あーシカセンベーくいてーなーとか、そういった種類の物思いに耽っているようなおももちでこう、な、こう、さ。してるのがシャレてるわけさ。
それがなんだよ。人間のやつらときたら。なってねえよな。
いざ写真撮りますよ、っていうととたんに背筋にものさしでも入れたみたいに、シャン!だってさ。
で、時には段差なんかを利用して三列だ、五列だと、ああ、それはさっき言ったか。
おい。
おい。
シカセンベーくれよ。
<ここでしかせんべいを食べながら、すこし休憩>
うん。でな。
要は見てるこっちが恥ずかしくなってくるわけ。
写真の話な。
写真をさ、こう、撮りますよー、はい、って風にやってるとさ。
指先までぴんとのびてたらなおさらだよ。
恥ずかしくなってくるわけ。見てるこっちがさ。
指先ぴんの子供たちがきれいに列をつくって横に並んでな、そう、時には段差を利用してさ、
ちょっとでも良く写ろうとしているのを見てるとさ。
もっとチカラ抜けよってさ。
だからおれな、出てってやったんだ。昨日。おとといか。いいんだけどさ。
出てってやったんだ。
三列だの五列だのと並んでいる子供たちと、ほっかむりかぶったカメラのあいだにさ。
あいだだよ。割り込む感じで。そう。最前列のやつなんか、おれの体で隠れちゃって全然写んない感じでこう、かぶっちゃう感じでこう、ぐいっと、しかだぞ、っと、こう、しかだぞ、ってな。
そしたら見てみろよ、子供達さ。
しかだ!だってさ。集合写真どころじゃなくなっちゃって。
そうだよしかだよ。しかだってのよ。
しかさんですよと、な。
やいや、おれが言いたいのはな。
そんときの、な、子供たちの顔。見せてやりたいよ!本人たちにな。
そういう顔で写んなさいよと。な!
いい顔してんじゃねえかよ。
一回ほぐしたらこっちのもんさ。
あとは老兵去るのみってな、適当に愛想ふりまいて退散さ。
でもな、そのあと木陰で見てたさ。
仕切り直した集合写真の、あいつらのいい顔!
やー、しかみょうりに尽きるねえ。
おれたちはさ、口はわりいかもしんねえけど、
結局やってくるみなさんに楽しい思い出をつくってもらってなんぼなわけ。
いい顔してたさ。あいつらさ。うまーく肩のチカラが抜けててさあ。
いい写真、とれたと思うぜ?
なあ。
おい。
シカセンベーくれよ。
こうして、修学旅行にやってきた子供たちは、とてもいい顔をした集合写真が撮れたのでした。
そこにはしかのはからいがあったことを、きっと彼らは知らないのでしょう。
でもそれを知ってもらうことを、しかもしかで、特に望んではいないのでしょう。
あいつらだって、どうせ暇だろうからね。
空青し しかのおかげで いい写真
by amadatasuku
| 2011-12-03 05:41