2011年 02月 27日
へへ。カモがネギ背負ってやってきやがったぜ。 |
悪党A「へへ。カモがネギ背負ってやってきやがったぜ。」
(例のいかにも西部劇っぽい扉がぱたん。ふるん、ふるん(西部劇のバーの扉は、あれもっとカチッと閉じないものかね))
悪党B「おいおい、ベルマンさんには、厄介はもう十分だって言われてるんじゃなかったのか?」
悪党A「なあに、ちょいとおれのスミスアンドウェッソンが火を吹きゃ、コトは一瞬さ。ガンの定期メンテナンスみたいなもんさ。」
悪党B「まったくおめえは懲りないヤツだぜ。」
で、けっきょく悪党Aはやられちゃうみたいなドラマを見ていました。
(臆病者だったはずの「カモ」は、少し土地を離れた間に、すっかり強くなっていた)
時間をもてあました休日のお昼。
窓の外の電線になんか鳥でもとまってくれればそれを眺められるものの、と思えるほどにテレビは退屈で、とはいえ散歩にでも出かけるかと思いこそすれ実際には起き上がらないようなごろごろしたお昼です。
鳥。
なんて鳥か知らない、鳥。
鳥ね。
渡り鳥は遠くからやってくる間、なに考えてんだろか。
つかれたなあとか思うのか。
つかれたけど先頭のひと(先頭の鳥か)が飛び続けるから、まあまだまだ飛んでるしかねーなあとか、思ってんのかな。
飛んでるしかねーなあと思ってるうしろのほうの鳥のあたまのなかは、案外きっと、いまの僕のあたまのなかと一緒。何かしようかなと思うけど、結局そのままなんもしない。
散歩に出かけないみたいに、飛ぶのをやめることもしないで飛び続けるんだな。ただただ、ぱたぱた、羽を動かすんだね、きっと。
ぱたぱた。ぱたん、ふるんふるん。バーの扉はやがてゆっくりと動きをとめて、あとはじぃっと、次のお客がやってくるまで。
扉の動きに合わせるように、気付けば想像のなかの渡り鳥も、湖に降り立って羽を休めています。
想像は世田谷の(窓に区切られた)空から、西部のどこだかへとんで、今では寒い湖に、ぷかぷかと浮かんでいます。「うしろのほう」の鳥たちも続いて、
ひゅう、ばさばさ、ちゃぽん。
ちゃぽん、と水面に降り立った鳥たちは、とりわけ「なんでもないふう」な素振りを見せる気がします。
や、別にさっきから水面をこうして泳いでるし。いま降り立ったわけじゃないし。
そう言いたげな表情をつくっているような印象。意味もなく右や左を振り向いたりして。ぴゅー、ぴゅー、なんでもないふうをよそおったつもりの口笛さえ聴こえてきそう。
この湖にも、カモがネギ背負ってやってきやがったぜ。遠い北国から遠路はるばる。
カモは渡り鳥ではないけれど、悪党のせいで想像が混ざる。
スミスアンドウェッソンではなく猟銃を持って蓑をかぶった吉兵衛さん(猟師)が、足音をひそめて湖畔の薮をかきわけます。熱だして寝込んじまったばあさんに、カモでも仕留めて、たんと栄養をつけさせにゃあ。おやおや、見ればカモがネギ背負ってやってきてからに。
吉兵衛さんは猟銃に弾をこめ、からだの重心を低くして、一羽のカモに狙いを定めます。
一方ネギを背負ったカモ(ここではもう、カモがほんとにネギを背負っている)は、そんな吉兵衛さんの殺意にも気付かず、すいすい泳ぎます。カモが背負った長ネギの下半分がずり落ちて水面に浸かり、まるですいとんの術を使った忍者が水中に潜ったまま、カモに引っ張られているようにも見えてきます。
吉兵衛さんは、水面をすべるように移動するカモの動きに合わせて、猟銃の狙いを定め続けています。
吉兵衛「昔はカモ撃ち名人と呼ばれた(そしていっつもカモ鍋をふるまってた)オイラだ、コトは一瞬だべ。猟銃の定期点検みたいなもんさね、なあに、なんてことはない。一発で仕留めてやるに。」
吉兵衛さん、銃身にぐっと力をこめます。いち、にの、
どん。
カモは羽をばたばたさせて空へ舞い上がります。吉兵衛さんは舌打ちをします。
水面にはもう、一羽のカモの姿もなく、浮かんでいるのはカモが慌てて落としていったネギだけです。
ばあさん、すまんのう、せっかくカモが、ネギ背負ってやってきてたんだがのう。
吉兵衛さんはあごをすりすり、肩をおとして家へ帰りました。
そんな吉兵衛さんと入れ替わりに湖には静寂がやってきて、上空にはさっき飛んで逃げたカモたちが、不安そうにまた舞い戻ってきていました。
ネギを忘れたことに気付いたのです。
カモたちは用心深くあたりを何往復か通り過ぎてみたあと、やがてそっと音をたてずに水面に降り立ち、各々のネギを一羽に一本、回収しました。
羽をつかってばさっとネギを手元にたぐり寄せ、ぐっとかかえたあと、「湖のこのへんはあぶないから、もうちょっと向こうのほうへ行こうかね」というふうにすいすいと、みなで泳いで去っていきました。
僕はそこに、ちょっとした違和感を感じました。
よく見るとカモはネギを、羽とおなかのあいだに、うまくはさんで持っていました。
カモはネギを「背負って」いるのではなく、「小脇にかかえて」いたのです。
すいすいすい。すいすいすい。
カモがネギを小脇にかかえて、なお用心深そうに泳いでいきます。その向こうには真っ赤な夕陽。
思えばカモがネギを背負うには、紐かなにかでくくりつけなきゃならないもんね。
カモにはそんな、器用なことはできないもんね。
夕陽は想像のなかだけでなく、気付けばすっかり、実際にも夕方でした。
スーパーへ行くために、いよいよ起き上がって出かけなきゃならないのです。
売り場に並んだネギを銃に見立てて、なあに、コトは一瞬さ、とか思う予定なのです。
by amadatasuku
| 2011-02-27 23:59