
いぬ「そうは言ってもね、これが本当なんですよ」
僕「んー、でもやっぱりね、よく考えたんだけど、長いならともかく、ない、っていうのは、さすがにちょっとこちらとしても。釈然としないというか、受け入れづらいというか」
いぬ「ええ、あなたの気持ちはよぉくわかります。でもね。本当にないんです。信じてくださいよ。さあ、大船に乗ったつもりで」
僕「しかしねえ。こうして玄関先で? ましてや見知らぬ犬に? 突然大船に乗ったつもりでと言われても…」
いぬ「見知らぬ犬? ははーん、あなた疑ってますね? わたしが野良の犬だとでも? ほらコレね。私の血統書ですよ。けっとうしょ。ま、コピーですけどね。ここにこうしてほら、私の両親の名前や出生地まで書いてあるでしょうに。ね?」
僕「そういうことではないんです。あなたが悪い犬じゃないことはわかります。しかし、ない、というのは極論すぎるというか…」
いぬ「ないったらないんです。私も広い世間をこうして散歩してますけどね、むずかしい世の中です、ある、と思っていたことが、フタをあけてみたらまるでない、ということも…。そうだ、たとえばこれね、私が着ているお気に入りのTシャツですよ。これうちのご主人に脱がせてもらわないと脱げないんですけどね、へへ、お恥ずかしい。これ裏返しても着れるんです。横文字でいうとリバーシブルってやつですかね。表があれば裏もあると思えど、不思議と裏なんてないんですよ。だから、さあ勇気を出して。ないものはないんです」
そうこうしている間に、犬が開け放したドアの向こうから吹き付ける生温い風のせいで、アイスクリームはすでに溶けかかっていた。一刻も早く食べなくてはならないとはいえ、これは去年買ったアイスクリーム。ついさっきコンビニで買ってきたというような代物とは訳が違うのだ。アイスクリームに賞味期限がないなんて、僕はいまだにうまく信じる事ができない。たとえ見知らぬ犬が突然ドアをノックして、血統書をちらつかせながら熱弁をふるったとしても、おいそれと食べる気には、僕はとうていなれそうもない。
<冷凍庫の扉をあけたまま立ち尽くす僕。〜ゆっくり暗転〜>
という夢を見たい。
おやすみー。

バスに乗るのが好きです最近ね
バイクや電車よりも時間がかかるんだけど、そのあいだしっかり本を読めるから
こないだバスのなかでケータイが鳴ってしまって、マナーモードにしてなかったから隣のおじいちゃんにすごい嫌な顔されたのね
でもうしわけないなあと思ってまた本読んでたら、こんどはそのおじいちゃんのケータイが鳴ったのね
そこで
僕がそのおじいちゃんの方を見てしまうと、さっきの嫌な顔の仕返しだと思われちゃうからと思って、おじいちゃんの方は向かないようにしてたんだけど、おじいちゃん、電話にでて話し始めたのね
えっ、と思ったけどそこは我慢して本に集中
おじいちゃん「おー、おー、今からな、オレな、メロンもってそっちに行くから。おー、おー、待ってなよ、おーう、おーう、あーぁい」
メロンかあ、いいなあ、って思ったよ。暑いからさ、クーラーの効いた部屋で、孫なのか子なのか、誰かとメロン食べるんだなあ、と思ってたら無意識のうちにおじいちゃんの方を見てたのね僕。そしたらさ、おじいちゃんニコニコしてて、僕もうんうん、いいねえ、と思ったよ。大事そうにスイカの段ボール抱えてさ
おじいちゃんの段ボール、でっかくスイカって書いてあるんだ
たぶん、スイカだよなあ
メロンでは、ないよなあと思ったよね僕は

にちようび。日がな、ごろごろする。
人は、ごろごろするときには決してどこか目的地へ向かってごろごろ移動するのではなく、部屋のそこここで(テレビのあたりでごろごろしたり、今度は本棚のほうでごろごろしたりして、)ごろごろ転がりながらも、だいたい同じ位置にとどまっている。
しかしごろごろしている頭の中は、案外アクティブなもので、あ、ツタヤ行こうかなとか、お昼は是非あそこの定食屋さんで…とか思う。実現こそしないけれども。
実現しないのは、ツタヤに行きたくないからではなくてごろごろが終わらないからで、
つまりごろごろをやめずにツタヤに行ってしまえばいいのだ。
このままごろごろと転がって部屋を出て、めんどくさいからカギはかけないけど、階段を転がりおちて道に出て、あの角をまがってああしてこうして、ツタヤ前で待機、うまく他のお客さんが自動ドアを開けてくれるのを見計らってツタヤに入店、旧作のコーナーは通路がせまくて転がれないから、広い新作コーナーでチョイス、一泊にして明日また転がって来ればいい、いや、明日にはシャンとしていたい、明日とは言わず、晩ごはんまでにはどうにかアクティブな感じに、あそこの定食屋さんで、ごろごろ、ごろごろ、どうせツタヤも定食屋さんも行かないし。
ごろごろは終わらないのだ。
部屋のあちこちに散らばってる本を手当たり次第に読むのだ。
あっちの本棚からこっちの本棚へ、ごろごろ移動するのだ。
このごろごろには意味があるのだ。
とかそんなこと言ってちゃだめなのだ。
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