2013年 06月 11日
耳 |
薄暗いバーのような場所で。
ドラえもんに似ている、ということでその場にいた客たちに囃し立てられていた男。
ずんぐりむっくりな体型で、丸刈りの短い髪の毛を青く染め、首から鈴を下げているだけの
似ても似つかない男だったけれど、
そんなことより。
と、僕は彼の耳から視線を外すことが出来なくなっていた。
店のスポットライトが不自然に彼の両耳を左右から照らしていた。
腫れぼったく膨れ上がった耳の、
内側にあるはずのぐるぐるした構造が、ネジ状に均一な渦を描いて外気を求めるように外側へ向かって伸び、
そのぐるぐるの先端はまるくとがって、手持ち無沙汰にクーラーの風に吹かれて乾燥していた。
ドラえもんだ、ドラえもんだ、
と男を茶化す声はまだ収まらない。
男は照れたような顔をつくって、反面、満足げな笑みを浮かべている。
ドラえもんだ、ドラえもんだ、
誰も彼の耳について何かを言う様子はない。
やがて僕の視線に気付いて、男はなぜか、彼の鼻を手で覆い隠した。
by amadatasuku
| 2013-06-11 03:15