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ひじと標高



いぬ「そうは言ってもね、これが本当なんですよ」

僕「んー、でもやっぱりね、よく考えたんだけど、長いならともかく、ない、っていうのは、さすがにちょっとこちらとしても。釈然としないというか、受け入れづらいというか」

いぬ「ええ、あなたの気持ちはよぉくわかります。でもね。本当にないんです。信じてくださいよ。さあ、大船に乗ったつもりで」

僕「しかしねえ。こうして玄関先で? ましてや見知らぬ犬に? 突然大船に乗ったつもりでと言われても…」

いぬ「見知らぬ犬? ははーん、あなた疑ってますね? わたしが野良の犬だとでも? ほらコレね。私の血統書ですよ。けっとうしょ。ま、コピーですけどね。ここにこうしてほら、私の両親の名前や出生地まで書いてあるでしょうに。ね?」

僕「そういうことではないんです。あなたが悪い犬じゃないことはわかります。しかし、ない、というのは極論すぎるというか…」

いぬ「ないったらないんです。私も広い世間をこうして散歩してますけどね、むずかしい世の中です、ある、と思っていたことが、フタをあけてみたらまるでない、ということも…。そうだ、たとえばこれね、私が着ているお気に入りのTシャツですよ。これうちのご主人に脱がせてもらわないと脱げないんですけどね、へへ、お恥ずかしい。これ裏返しても着れるんです。横文字でいうとリバーシブルってやつですかね。表があれば裏もあると思えど、不思議と裏なんてないんですよ。だから、さあ勇気を出して。ないものはないんです」

そうこうしている間に、犬が開け放したドアの向こうから吹き付ける生温い風のせいで、アイスクリームはすでに溶けかかっていた。一刻も早く食べなくてはならないとはいえ、これは去年買ったアイスクリーム。ついさっきコンビニで買ってきたというような代物とは訳が違うのだ。アイスクリームに賞味期限がないなんて、僕はいまだにうまく信じる事ができない。たとえ見知らぬ犬が突然ドアをノックして、血統書をちらつかせながら熱弁をふるったとしても、おいそれと食べる気には、僕はとうていなれそうもない。

<冷凍庫の扉をあけたまま立ち尽くす僕。〜ゆっくり暗転〜>


という夢を見たい。
おやすみー。
by amadatasuku | 2009-07-22 23:59 | Trackback
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