
だいたいあいつらはすぐに並んで写真を撮りたがるんだ。
きれいに一列に並ぶのがそんなに素敵なことか?
時には段差を利用して。三列やら五列やらに並んでさ。
ほっかむりかぶったみたいな大袈裟なカメラで。ぱちりって?
もう一枚!だってさ。
子供たちのなかには、指先までのばして「きをつけ」ってのをやってるやつもいる。
おれたちで言えば、ひづめの先までのばしてってか。
ださい。
ひづめの先までぴんとのばして、わざわざ写真に収まるか?ふつう。
やだね、やだやだ。ださいって。
おれたちゃさ、撮られることに関しちゃ、まあ退屈な午後をまるごと使って語れるくらいには、こだわりを持ってんのさ。
シャレた撮られ方ってのはな。おい。
前脚をこうして、ふたつに折り曲げてな。さも撮られてることには気付いてませんよ、ってか、撮られてることなんか、気付いてるけども気にしてませんよってな、いわゆる自然体でこう。な。
シャンと立たずに、あーシカセンベーくいてーなーとか、そういった種類の物思いに耽っているようなおももちでこう、な、こう、さ。してるのがシャレてるわけさ。
それがなんだよ。人間のやつらときたら。なってねえよな。
いざ写真撮りますよ、っていうととたんに背筋にものさしでも入れたみたいに、シャン!だってさ。
で、時には段差なんかを利用して三列だ、五列だと、ああ、それはさっき言ったか。
おい。
おい。
シカセンベーくれよ。
<ここでしかせんべいを食べながら、すこし休憩>
うん。でな。
要は見てるこっちが恥ずかしくなってくるわけ。
写真の話な。
写真をさ、こう、撮りますよー、はい、って風にやってるとさ。
指先までぴんとのびてたらなおさらだよ。
恥ずかしくなってくるわけ。見てるこっちがさ。
指先ぴんの子供たちがきれいに列をつくって横に並んでな、そう、時には段差を利用してさ、
ちょっとでも良く写ろうとしているのを見てるとさ。
もっとチカラ抜けよってさ。
だからおれな、出てってやったんだ。昨日。おとといか。いいんだけどさ。
出てってやったんだ。
三列だの五列だのと並んでいる子供たちと、ほっかむりかぶったカメラのあいだにさ。
あいだだよ。割り込む感じで。そう。最前列のやつなんか、おれの体でかくれちゃって全然写んない感じでこう、かぶっちゃう感じでこう、ぐいっと、しかだぞ、っと、こう、しかだぞ、ってな。
そしたら見てみろよ、子供達さ。
しかだ!だってさ。集合写真どころじゃなくなっちゃって。
そうだよしかだよ。しかだってのよ。
しかさんですよと、な。
やいや、おれが言いたいのはな。
そんときの、な、子供たちの顔。見せてやりたいよ!本人たちにな。
そういう顔で写んなさいよと。な!
いい顔してんじゃねえかよ。
一回ほぐしたらこっちのもんさ。
あとは老兵去るのみってな、適当に愛想ふりまいて退散さ。
でもな、そのあと木陰で見てたさ。
仕切り直した集合写真の、あいつらのいい顔!
やー、しかみょうりに尽きるねえ。
おれたちはさ、口はわりいかもしんねえけど、
結局やってくるみなさんに楽しい思い出をつくってもらってなんぼなわけ。
いい顔してたさ。あいつらさ。うまーく肩のチカラが抜けててさあ。
いい写真、とれたと思うぜ?
なあ。
おい。
シカセンベーくれよ。
こうして、修学旅行にやってきた彼らは、とてもいい顔をした集合写真が撮れたのでした。
そこにはしかのはからいがあったことを、きっと彼らは知らないのでしょう。
でもそれを知ってもらうことを、しかもしかで、特に望んではいないのでしょう。
あいつらだって、どうせ暇だろうからね。
空青し しかのおかげで いい写真

買ってきた本をほくほくと読み始めたはずなのに、
眠気というのはそういうほくほくのことをよく知らないようで、
あーとか思ったのをさいごに、次のときには、もうちょっと寝たいなあとか思ってた。
雪が降る夢をみた。
初雪なのに、窓の外はうっすらではなくしっかりとした雪景色だった。
目の前に堆積した雪。その重たさを想像すると冷たさを忘れる。冷たさを想像すると、重たさを忘れる。
冷たい雪は軽い。
夢から覚めたとき、ひろげた本を伏せて、自分の胸元にまるでかけぶとんみたいにかけていた。
ソファで寝るのは寒かったからだろう。
からだろうけれど寒かったのは、本なんかをかけぶとんにしていたせいだ。

テレビの画面で犬が鳴いた時、窓の外でも犬が鳴いてた。
窓の外は近くの犬。
テレビの画面は遠くの犬。

あいつ、蟲笛とかもって、いけすかない。
都内の大学を卒業後、地方都市の銀行員になってからなのか、「あいつ」の性格はなんだか変わってしまった。
大学時代の僕とTは、あいつと3人並んでいつも、真面目に講義を受けたものだった。
代返を頼まれれば僕らは快く承諾するような、ようするにまあ、他のやつらからしたら都合の良い”しゃんとした”(見方を変えれば垢抜けない)学生だった。
学校が終わると3人いずれかの家に集まって、
彼女が出来ないとか出来そうだとかやっぱり勘違いだったとかそんなふうなことを、
慣れないビールと一緒に飲みくだしていた。
久しぶりに3人で会おうと言い出したのはあいつだった。
大学を出たあと僕とTは東京に残り、あいつは地元に働き口があると言って帰っていった。
それきりこの5年間一度もメールなんて寄越さなかったのに。
あいつは突然、かつての3人のアパートの中間地点にあった(ベンチでよくコンビニ弁当を並んで食べた)公園に今日の19時、と指定して誘ってきた。
僕とTの携帯には、3人で交わすメールの履歴と、僕とTだけのやりとりの履歴が存在し、
僕とTとのやりとりにはハテナマークばっかりが並んでいた。
なに、結婚?
でもいまさらおれたちか?
そうして18時30分にあらかじめ集まった僕とTの前に30分後、あいつはやってきた。
公園の入り口の街灯の向こうの、薄暗がりで立ち止まってこっちを見ている。
なんかひゅんひゅんゆってるけど。
あいつ、なんか笑ってる。
メールとおんなじハテナを頭上に浮かべながら僕は、さっそくどう接したらいいかわからなくなっているところに、
あれ、ナウシカのやつ。
とTがつぶやいた。
ナウシカが鳴らしてたあれだ。あれを振ってる、ひゅんひゅん。
うっすら見えるあいつの表情は、なんか自信ありげなんだけど。こっちにしてみれば頭上のハテナがどんどんふくらんで大きくなるばっかりだ。
あいつはきっとわざわざ新幹線に乗ってここまでやってきたのだ。
ハテナがふくらむ。
あいつなんであんなに自慢げなんだ。
またハテナがふくらむ。
で、なんでこっちまで近づいてこないんだ。
ひゅんひゅんひゅん。
頭上のハテナというのは、あんまり長い間ふくらんだまま放置しておくと、だんだんとイライラに変わってくる。
Tはまた小声で言った。
あいつ、蟲笛とかもって、いけすかない。
確かにいけすかない。薄暗がりであいつ、なんだかわかんないけど確かにいけすかない。
笑ってるし。
なにあれカッコつけてるんだろうか。
あいつは今、片手をスーツのポケットに突っ込み、もう片方の手で蟲笛をまわしている。
片方の足に体重をかけるようにして立って。
まわしながら、こっちを見ている。
ひゅんひゅんひゅん、
ひゅんひゅんひゅん、
まだ、こっちを見ている。
近づいてくる気配はない。
時々、ひゅううん、ひゅん。
ひゅんひゅんひゅん。
ひゅんひゅんひゅん。
まだ、こっちを見ている。
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